Scene001 うねる廊下(2004/05/17)

これは私が設計事務所に就職して最初に設計・監理を担当した兵庫県にある特別養護老人ホームだ。小さな建築設計事務所というのはそのほとんどが、所長が基本的な設計を行い、それをスタッフが具体的に詳細まで設計していくシステムになっている。入所して半年後、私は所長がプランニングした基本設計にそって、この老人ホームの設計を担当していた。
計画時、この建物は南側に流れる川に沿って湾曲する平面の建物だった。途中、敷地が東側に移動し、川に沿って湾曲する意味がなくなったが、湾曲した形態はプランの中にそのまま残り、鳥が翼を広げたような形状となり、その両翼に居室が連なっている形で完成した。
長い廊下を経て居室を並べる手法は、冷たい病院や監獄を連想させるため、福祉施設には相応しくないという意見もある。しかし、この建物に関しては廊下が湾曲していることが、退屈になるはずの廊下を逆に温かい忘れがたき情景に変えてくれた。
廊下の居室が並ぶ側は木の腰壁と大きな引き戸で構成されており、窓側は車椅子に腰掛けた状態でも窓の外を見下ろせるよう腰より窓の下端を下げている(もちろん転落防止策をして)。歩いてみると廊下がうねっているため景色が徐々に変化し目を退屈させない。窓の外には山に囲まれた美しい田園風景が広がっている。
入居者はこの廊下での移動を楽しんでいる。廊下に椅子を持ち出し、廊下から窓の外の日の傾き、季節の移ろいを飽きもせずに長時間眺めている人も何人か見受けられる。廊下で日向ぼっこをしながら話している人のなんと多かったことか。
建物は部屋が主役。部屋と部屋を結ぶ廊下は脇役で、短ければ短いほどいいとされる。そんな中で廊下の存在が使用者に愛されている建物というのは中々お目にかかれない。
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